アリスモメーター(Arithmometer)

歯車式計算機の実用化・量産化が進んだのは19世紀である。フランスのコルマー(Charles Xavier Thomas de Colmar、1785-1870)がアリスモメーターという計算機を発明し、1820年に特許を取得している。コルマールは保険会社の社長であった。保険会社は、顧客ごとのリスクに応じた適切な保険料の設定などで大量の数値計算業務を抱えていた。そこでコルマールは業務に役立てようと自ら計算機を開発したのである。
 コルマールの計算機は、ライプニッツの計算機と同じく段付き歯車を利用したタイプのものであったが、8桁の数字どうしの掛け算を18秒で、16桁の数字を8桁の数字で割るのを24秒で、16桁の数字の平方根を求めるのを1分15秒でできた。
 コルマールの計算機は、1825年から65年までの40年間に約500台、1865年から1878年までの13年間に約1,000台が売れるなど、商業的に最初に成功した最初の実用機であり、第一次世界大戦期の1915年頃までに約5,500台が製造された。1880年代末から模倣品(クローン)を製造する企業が多数登場しはじめ、最終的には20社にのぼる企業が模倣品を製造するほど、コルマール式計算機は社会的に普及した。
 そのため、コルマール以降に新しく発明された技術的構造が異なる歯車式計算機もアリスモメーターの名称で呼ばれた。例えば、段付き歯車を採用したコルマールとは異なり、ピン歯車を採用したオドネルの計算機もアリスモメーターと一般には呼ばれている。日本最初期の歯車式計算機であり、技術的構造がまったく異な る計算機である矢頭良一の自働算盤の商品名も、「パテント・ヤズ・アリスモメトール」(Patent Yazu Arithmometer)であった。

 
段付き歯車(stepped drum)
段付き歯車とは、下図のように、長さが異なる9つの歯を円筒に付けたものであり、円形歯車と組み合わせて用いる。計算機で「1」を設定すると1つの歯が、「2」を設定すると2つの歯が円形歯車とかみ合うように設計されている。
下図ような配置であれば、段付き歯車の7つの歯が円形歯車とかみ合うことになる

[図の出典]
元の図から、歯車の軸および背景色を取り除いた。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Staffelwalzeprinzipbha.jpg

 
ピン歯車(pin wheel)
ピン歯車とは、引き込み式のピン(可動ピン)が内部に9つ取り付けられた歯車である。計算機で「1」を設定すると1つのピンが、「2」を設定すると2つのピンが突き出た状態になるように設計されている。
下図では、3つのピンが突き出た状態になっている。

[図の出典]
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Roue_%C3%A0_nombre_de_dents_variables.png

 
参考資料
  1. The Museum of HP Calculators “How Calculating Machines Worked”
    https://www.hpmuseum.org/mechwork.htm

  2. National Museum of American History “Stepped Drum Calculating Machines” Collections>Object Groups>Calculating Machines
    https://americanhistory.si.edu/collections/object-groups/calculating-machines/stepped-drum-calculating-machines?utm_source=chatgpt.com
    Thomas Arithmometer(ca 1820)、Payen Arithmometer(ca 1887)など76のアリスモメーターに関する写真付き解説がある。

  3. 国会図書館「アリスもメーター」博覧会-近代技術の展示場>第2部 出展品からみる産業技術の発達 > 技術の一覧>計算機
    https://www.ndl.go.jp/exposition/data/R/652r.html