コンピュータは何をするマシンなのか?-情報処理装置としてのコンピュータに関する技術論的理解

  1. 「情報処理を構成する要素的作業」としての演算(operation)
    1. 算術演算(四則演算)- 加算、減算、乗算、除算、インクリメント処理、デクリメント処理
    2. 論理演算 - AND(論理積)、OR(論理和)、NOT(否定)、XOR(排他的論理和)、その他のビット演算(NAND、NOR、XNORなど)
    3. 比較演算 - 等しいかどうかの判定(==)、大小比較(<、>、<=、>=)
    4. シフト演算 - 左シフト、右シフト、算術シフト(符号を維持するシフト)、論理シフト(符号を無視)
     
  2. 「演算(operation)処理を担うハードウェア」としてのALU(算術論理演算装置、Arithmetic Logic Unit)
    算術演算・論理演算を実行するハードウェア要素で、CPU(中央処理装置、Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)の中核をなす部分である。
    ALUは、制御ユニットからの指示を受けて各種の演算を実行し、その計算結果をレジスタやメモリに書き込むといった処理を行う装置である。
     
  3. ALU(算術論理演算装置、Arithmetic Logic Unit)のハードウェア的内部構成
    1. 入力レジスタ- 演算対象のデータを一時的に保持。
    2. 演算回路- 加算器や論理ゲートなど、実際に演算を実行する回路。
    3. フラグレジスタ- 演算結果に基づいてフラグを設定(例: ゼロフラグ、キャリーフラグ、オーバーフローフラグ)。
     
  4. 2種類の算術演算(四則演算)- 「整数」演算 vs 「浮動小数点」演算
    a.「整数」演算-アドレス計算(メモリ管理など)、データカウント、ループ処理、状態管理、暗号化などの用途で用いられる演算処理
    整数値を対象とした演算で、小数点は明示的には取り扱わない。
    演算は高速だが、取り扱うことが可能な数値範囲に制限があり、演算処理の結果としてオーバーフロー(取り扱い可能範囲を超えた数値となること)が生じて、演算処理が継続できない可能性がある。
    加算・減算が高速。乗算・除算も浮動小数点よりは軽量。
    暗号化作業では、データのAND,OR,XOR論理演算といったビット演算を多数回利用することが多い。
     
    b.「浮動小数点」演算- AI、グラフィックス処理(画像処理、VR[Virtual Reality,仮想現実]処理など)、数値シミュレーション(気象シミュレーションなど)や数値解析といった科学技術計算などの用途で用いられる演算処理
    浮動小数点数(floating-point number)とは、小数点を含む実数値の表現形式であり、符号ビット(正または負)、仮数部(正規化された有効桁)、指数部から構成される。
    単精度(32ビット)で約7桁の精度、倍精度(64ビット)で約16桁の精度。有効桁数内を超えた部分では、「丸め誤差」が存在する。
    浮動小数点演算は複雑で、整数演算よりも計算コストが高い。特に、乗算や除算の処理で計算コストが高い。
     
  5. 「整数演算」専用ALU vs 「浮動小数点演算」専用ALU
    「浮動小数点」計算処理それ自体は、「整数演算」専用ALUでも実行できるが、実行速度は遅い。そのため「浮動小数点」計算処理のためには、「浮動小数点演算」専用ALUが用いられている。

    現代のCPUには、「整数演算」専用ALU装置と「浮動小数点演算」専用ALU装置=FPU(Floating Point Unit)が統合されていることが多い。ただしコストの関係で、浮動小数点演算専用ALU装置はさほど多くは搭載されてはいない。
    これに対してGPUには、大量の「浮動小数点演算」専用ALUが搭載されている。
    機械学習やグラフィックス処理ではテンソル計算を大量に処理する必要があるため、「浮動小数点」演算に強いGPUが利用される。

     

関連参考文献

2024-06-04講義メモ

取り上げるポイント

  1. Microsoft BASICインタプリタの多機種展開(なぜAltair用インタプリタが他の機種でも使えたのか)
  2. IBM PC開発時におけるオペレーティングシステムの選択について(CP/M、86-DOS、MS-DOS)
  3. IBM互換機とPC-98互換機開発について(エプソン互換機がなぜ著作権違反で訴えられたのか)
 

CUIからGUIへ
ビットマップディスプレイへ

ポイント理解のための視点

  1. 市場規模・出荷台数の歴史的推移
  2. 産業構造
    1. メインフレーム産業の構造(垂直統合型)
      vs

    2. PC産業の構造(水平分業型 or 垂直統合型)
       PC専業メーカー(MITS、Dellなど) ソフト専業メーカー
       PCシステムメーカー
  3. 著作権 vs 特許権 ー プログラム・ソフトウェア内蔵のハードウェア
    1. ソフトウェア(プログラミング言語=開発言語ソフトウェア、アプリケーションソフトウェア)
    2. ハードウェア(CPU=マイクロプロセッサ、BIOSチップ、GPU)
 
  1. https://www.sanosemi.com/biztech/2024-06-04-01.html
    https://www.sanosemi.com/biztech/2024-06-04-02.html
    https://www.sanosemi.com/biztech/2024-06-04-03.html

重要関連point

  1. 著作権 vs 特許権
  2. 産業構成 – target顧客ニーズへの対応[pioneer=first mover ー>創造的対応、follower=2nd mover以降ー>受動的対応]としてのsegmentation
    企業ニーズ

    企業の基幹処理業務(銀行の勘定系システムなど)     – central computing needs
    企業の部門処理業務(研究開発、経理処理、人事管理など) – departmental computing needs
    企業の個人処理業務(従業員個人がおこなう作業) – central computing needs

    家庭ニーズ(Home use)

    ゲーム用途
    家庭用文書処理業務(年賀状作成、手紙作成など)
    家庭用画像処理(年賀状用写真・イラストなど)
  3. 市場

前提知識
ミニコンピュータ(PDP-10,PDP-11)
マシン語、高級言語

BIOS関連記事
大原雄介(2016)「業界に痕跡を残して消えたメーカー BIOSで功績を残したPhoenix」2016年12月12日
https://ascii.jp/elem/000/001/402/1402407/

関連参考サイト
情報公共論
https://www.sanosemi.com/infopub/

Shap関連資料

  1. Sharp100年史
    https://corporate.jp.sharp/info/history/h_company/pdf_jp/all.pdf
    https://web.archive.org/web/20191205195514/https://corporate.jp.sharp/info/history/h_company/pdf_jp/all.pdf

  2. 「シャープ製品」『電子書籍で復刻 レトロ家電カタログ』
    https://galapagosstore.com/web/catalog/sharp/top
    https://web.archive.org/web/20230430023231/https://galapagosstore.com/web/catalog/sharp/top

    PC製品に関して、MZシリーズ、XIシリーズ、X6800シリーズなどのカタログが収録されている。PC以外にも、ZAURUS、パーソナルワークステーション AXシリーズなどのカタログも収録されている。なおこれらのカタログはすべて、無料ダウンロードが可能である。ただしビューアーは専用のもの(無料)をダウンロードし、インストールする必要がある。

Macintoshの市場的成功の要因

ハードウェア(Appleのレーザー・ライター)とソフトウェア(Aldus PageMaker)の組み合わせによるDTP市場の成立による成功
「ちょうどアップルIIの売り上げが、革新的なハードウ ェア(アップル•ディスクIIドライブ)とソフトウエア(ビジカルク)の登場と出会いによって飛躍的に伸びたように、マックの売り上げも、1985年7月、アップルのレーザーライターがアルダスのページメーカーに出会ってデスクトップ•パブリッシングというすばらしい環境が整ったことによって爆発的に伸びた。」(リンツメイヤーほか,2006,364)
 
MaCintoshII(1987)における「拡張可能性の確保」=オープン・アーキテクチャ戦略への転換
「スカリーは、アップルnの成功から学んだ教訓を活かし、1987年に拡張可能なマックIIを発売し、(かつてジョブズが反対していた) マックのアーキテクチャをオープンにすることによって、マックビジネスの勢いを保った。最初の出だしでなかなか弾みのつかなかったマックだが、ここへ来てアップルはついに失敗知らずとなったようだった。」(リンツメイヤーほか,2006,364)
 
[引用文献]
  1. リンツメイヤー,O.、林信行(2006)『アップル・コンフィデンシャル2.5J』上、アスペクト

1982年当時、「アップル社は消費財メーカーとして技術企業ではなく、技術者はまったく求めていない」ことをジョブズとマークラは確認している

「一九八二年下期に入って、エストリッジの引き抜き話が終わったころ、ジョブズとマークラは、ア ップル社は現実には消費財製造会社であって技術企業(a technology enterprise)ではなく、実は技術者(technologist)はまったく求めていないのだ、ということを確認した。」ローズ, F.(渡辺敏訳,1990)『エデンの西ーアップル・コンピュータの野望と相克』サイマル出版、p.132

Rose, F.(1989) West of Eden: The End of Innocence at Apple Computer, Viking,p.74
“In the latter part of 1982, in the wake of the Estridge episode, Jobs and Markkula had decided that Apple was actually a consumer-products company, not a technology enterprise, and that they didn’t really want a technologist at all.”

IBM PC(1981)用グラフィカル・ユーザーインターフェース

ビジカルク(VisiCalc9を開発・販売していたビジコープ社によるIBM PC(1981)用グラフィカル・ユーザーインターフェースの市場的失敗-DOS用アプリがその上で動作しない、動作が遅い、価格が高い、要求ハードウェア水準の高さ
 
「パーソナルソフトウェアは、同社の主要製品であるビジカルクを前面に出すためビジコープと社名を変えた。ビジコープは、ラスベガスで開かれた1982年秋のコムデックスで、「ビジオン」(コ—ドネーム「クエイザー」)という名前の高性能IBMPC用のグラフィカル•インタ—フェイスを公開し、再び注目を集める。この時アップルはまだリサを発表していなかったので、これが多くの人にとってウィンドウ、アイコン、マウス、ポインタといったものを初めて見る機会であった。残念ながら、1年後ビジオンが出荷された時には、ほとんど売れなかった。DOS用アプリケーションを実行できなかったため、表計算プログラム、グラフィックプログラム、ワープロ、それにマウスを含む専用のパッケージを購入しなければならず、それが合計で1765ドルもしたのだ。出荷が遅れ価格が高かった上に、動作が遅く、バグが山ほどあり、ハードウェアに対する要求も高かった。1983年8月、コントロール•データがビジオンを買収したものの、その後この業界から姿を消してしまった。しかし、ロータスデベロップメントが1985年にビジカルクの権利を買い、世界初の表計算の技術はロータス1,213に生き続けている。」リンツメイヤー,O.、林信行(2006)pp.91-92

リンツメイヤー,O.、林信行(2006)『アップル・コンフィデンシャル2.5J』上、アスペクト

Apple関係者によるIBM PC(1981)評価

販売チャネルを根拠として、IBM PC(1981)に対するAppleの優位性を確信していたApple社長(当時)のマイク・マークラ
 
「当初アップルには、IBMに対して優位を維持できるという自信があった。「IBMを市場から閉め出すつもりだ」と会長のスティーブ•ジヨブズは言った。「我々の守りは堅い」。社長のマイク•マークラも同様に鼻息が荒く、こう述べた。「我々はIBMがこの市場に参入してくるのを4年も前から見越し、待ち受けていた。主導権は我々にある。100万台の設置ベースのうち3分の1は押さえている。それに我々にはソフトウェアの蓄積がある。販売力も持っている。アップルのやることに対して行動を起こし、対応しなければならないのはIBMの方だ。今のやり方ではまったく不十分だ。IBMは、個人にどうやって売り込んだらよいか、まるでわかっていない。我々でさえ4年かけてようやくわかったのだから。IBMは流通機構や独立系のディーラ—について学ばなければならない。そういう時間は、金をつぎ込んだからといって短縮できるわけではない。第3次世界大戦でも起こらないかぎり、我々をノックアウトするのは不可能だ」リンツメイヤー,O.、林信行(2006) pp.180-181
 
IBM PC対抗製品としてのApple III
 
「我々は表計算を使える中小企業のオーナーをねらって、専用のコンピユータを設計した。それがアップルIIIだ。IBM がじりじりと追い上げてきている状況で、3年間、あらゆるプロジェクトと広告がアップルIIIのために使われた。その時世界で最も売れていたコンピュータの アップルIIのためにではなく」 スティーブ•ウォズニアック(「ニューズ ウイーク』1996年2月19日号)」
(リンツメイヤーほか,2006,93)
リンツメイヤー,O.、林信行(2006)『アップル・コンフィデンシャル2.5J』上、アスペクト
 
 
“We decided to go after small business owners who could use a spreadsheet, and designed a computer especially for them, the Apple III. With IBM nipping at our heels, every project and ad for three years was for the Apple III and not for the largest- selling computer worldwide, the Apple II.〃 Steve Wozniak(Newsweek, February 79,1996)
(Linzmayer,2004,15)
 
Linzmayer, Owen W. (2004) Apple Confidential 2.0:The Definitive History of the WoricTs Most Colorful Company, No Starch Press