大きさ、利用形態、処理業務によるコンピュータの分類
— Mainframe Computer, Minicomputer, Personal Workstation, Personal Computerの区別と連関の技術論的根拠 —
各種ソフトウェアおよび各種周辺機器の利用によって各種の情報処理が可能なコンピュータ製品は、その製品の大きさ、利用形態、処理業務に応じて表1のように分類できる。
表1 1970年代中頃におけるコンピュータ製品の分類 | |||||
大きさを基本とした 分類名 |
購入 主体 |
利用主体および利用形態 | 処理用途 | 対応製品セグメント | 市場形成 時期 |
Room-sized computer (large scale computer) |
企業 | 会社 Central computing |
全社的情報処理業務 (基幹業務処理) |
メインフレーム | 1950年代 |
Minicomputer | 部門 Departmental computing |
部門的情報処理業務 |
ミニコンピュータ | 1960年代 | |
--- | 個人 Personal computing |
個人的情報処理業務 | パーソナル・ワークステーション | 1970年代 | |
Microcomputer | 個人 | 個人的情報ホビー作業 | パーソナル・コンピュータ |
ダウンサイジング論的主張の具体例
1970年代中頃のアメリカでPCは、PDP-10などのミニコンピュータ(minicomputer、以下、ミニコンと略)よりもさらに小さいということで、マイクロコンピュータ(microcomputer)と一般に呼ばれていた。
そうした歴史的経緯もあり、ミニコンからPCへの製品イノベーションは、ダウンサイジングという視点で理解されることが多い。すなわち、「メインフレームなどの大型計算機からミニコンへというダウンサイジングを主目標とする技術の歴史的発展動向に沿って開発された製品である」とされることが多い。
そうした歴史的経緯もあり、ミニコンからPCへの製品イノベーションは、ダウンサイジングという視点で理解されることが多い。すなわち、「メインフレームなどの大型計算機からミニコンへというダウンサイジングを主目標とする技術の歴史的発展動向に沿って開発された製品である」とされることが多い。
例えば、山田昭彦(2014)は、「汎用コンピュータからミニコンピュータの発展の流れの中で、マイクロプロセッサの出現がトリガーになって[PCが]誕生した」(p.219,[]内は引用者に夜補足)とし、技術的契機としてマイクロプロセッサを取り上げながらも、基本的にはダウンサイジングの流れの中にPCを位置づけている。
Campbell-Kellyほか(2015) も下記のように、ミニコン、PC、スマートフォンすべてを「コンピュータ・プラットフォームの不断のミニチュア化」(the unstoppable miniaturization of computer platforms)として位置づけている。
One major theme in the development of the computer industry is the unstoppable miniaturization of computer platforms, a trend driven primarily by technological change in the field of electronics. The early mainframes were massive machines typically housed in dedicated spaces with powerful air-conditioning equipment. The first step toward making computers more compact came with the introduction of minicomputers and small business computers in the 1970s. Another step came with the dawn of the personal computer in the 1980s. In recent years further miniaturization has resulted in the proliferation of smartphones, which arc in essence general-purpose computers with telephone capabilities.(Campbell-Kellyほか,2015, pp.2-3)
山中和正、田丸啓吉(1976)『マイクロコンピュータ入門』日刊工業新聞社、p.1は、下記のように「形状がミニコンピュータよりさらに小さいという意味から,マイクロコンピュータと呼ばれている」としている。
「マイクロコンピュータの出現が,アメリカIntd社のMCS-4をもって最初とするならば,それは1971年のことであり,今日までわずかの年月しかたっていない.しかし,その間の技術の進歩と,世間の注目度の高まりは,まったく目をみはるものがある.筆者はこのことについて,「マイクロコンピュータは,半導体技術の土壌の上にミニコンピュータの技術を栄養として吸収しながら成長しつつある現代の怪物である」という表現をとりたい.そして「種子は?」ときかれれば「電子式卓上計算機」と答えるであろう。マイクロコンピュータの前身は,激しい価格競争を展開している電子式卓上計算機(通称,電卓)用の素子である.トランジスタから集積回路へと変化を続けた論理素子は,さらに小型化と価格引き下げを図るために,大規模集積回路(LSI)の利用へと進んだ.そして,1台の電卓の全論理回路が1個のLSIチップの中に収容できるようになった.電卓の量産規模や要求性能もLSIに最適であったといえる.ついで,このLSIをワンチップCPUと呼んで,コンピュータに流用することが考えられるようになった.コンピュータ用として使う時は必壼しもワンチップに全部収容されている必要はない.ときには,メモリやマイクロプログラム用固定メモリ,バス制御回路などは別のチップになっている方が,標準化と融通性の観点からいって,かえって都合のよいところもある.しかし,数チップ以内ではまとめたい.このような発想で,Intel,National Semiconductor,Rockwell Internationalなど数社が,コンピュータ用のLSIを発売した.こうしてできたコンピュータは,形状がミニコンピュータよりさらに小さいという意味から,マイクロコンピュータと呼ばれている.
上記と同一の記述は、下記のように、泉川新一(1983)『マイコン・パソコンとOA入門 基本18章』電波新聞社、p.3やp.275にもある。
現在では1台の電卓の全論理回路が1個のLSIチップの中で収容できるようになりました。
次いで, このLSIをワンチップCPUと呼んで, コンピュータに流用することが考えられるようになりました。
こうしてできたコンピュータは形状がミニコンピュータよりもさらに小さいという意味からマイクロコンピュータと呼ばれています。(p.3)
次いで, このLSIをワンチップCPUと呼んで, コンピュータに流用することが考えられるようになりました。
こうしてできたコンピュータは形状がミニコンピュータよりもさらに小さいという意味からマイクロコンピュータと呼ばれています。(p.3)
現在はエレクトロニクスの第4世代に突入しているといえます。第4世代というのはLSIを指します。
そして, このLSIを「ワンチップCPU」と称して, コンピュータに流用することが考えられるようになりました。
こうしてできたコンピュータは形式がミニコンピュータよりもさらに小さいという意味から「マイクロコンピュータ(俗称マイコン)」と呼ばれています。(p.275)
そして, このLSIを「ワンチップCPU」と称して, コンピュータに流用することが考えられるようになりました。
こうしてできたコンピュータは形式がミニコンピュータよりもさらに小さいという意味から「マイクロコンピュータ(俗称マイコン)」と呼ばれています。(p.275)
Parsons, J. J., Oja, D. (2014) New Perspectives on Computer Concepts 2014, Course Technology, Cengage Learningは、下記のように「ミニコンピュータは、メインフレーム・コンピュータよりも非力であるが、より小さいものとして設計された」としている。
In 1965, Digital Equipment Corp. (DEC) introduced the DEC PDP-8, the first commercially successful minicomputer. Minicomputers were designed to be smaller and less powerful than mainframe computers, while maintaining the capability to simultaneously run multiple programs for multiple users.”
この問題について拙稿の佐野正博(2010)もまた、コンピュータのダウンサイジング化の第2段階としてPC製品を位置づけていた。PCとパーソナル・ワークステーションの製品市場セグメントの区別を無視し、パーソナル・ワークステーション製品を「ヒットしなかったPC製品」として位置づけるかのような発想法に立っていた点で極めて不適切であった。
関連文献
Campbell-Kelly, M.,Garcia-Swartz, D.D.(2015) From Mainframes to Smartphones: A History of the International Computer Industry , (Critical Issues in Business History), Harvard University Press
山田昭彦(2014)「パーソナルコンピュータ技術の系統化調査」『国立科学博物館技術の系統化調査報告』Vol.21, pp.217-319
佐野正博(2010)「IBMのPC事業参入に関する技術戦略論的考察」『明治大学 社会科学研究所紀要』48(2), pp.1-33
山田昭彦(2014)「パーソナルコンピュータ技術の系統化調査」『国立科学博物館技術の系統化調査報告』Vol.21, pp.217-319
佐野正博(2010)「IBMのPC事業参入に関する技術戦略論的考察」『明治大学 社会科学研究所紀要』48(2), pp.1-33
ダウンサイジング論批判
しかし物理的な大きさや重量に関するダウンサイジングといった社会的ニーズに対する技術的対応そのものは1970年代前半にはすでになされていたし、一定の社会的普及があった。ミニコンからPCへという製品イノベーションの画期的かつ根本的な特徴は、物理的な意味におけるダウンサイジングにはない。
表2のように、大きさや重量という視点だけから見れば、日立のHITAC10 (1969)、NECのNEAC-M4(1969)、などPCとほぼ同等な製品がPC登場以前に存在していた。それらの製品の大きさは、現代のタワー型デスクトップPCとほぼ同じである。NEAC-M4やIBM5100は重量もほぼ同じである。
MITSとほぼ同時期に登場したIBMのIBM 5100 Portable Computer (1975)のサイズ・重量もPCと現代のタワー型デスクトップPCとほぼ同じである。
表2 PC登場以前の小型のコンピュータ
外形寸法(単位:cm) | 重量 | |
日立HITAC-10 | 44.5×30.0×54.7 | 40kg |
NEC NEAC-M4 | 48.3×24.2×66.1 | 22kg |
IBM 5100 | 44.4×20.3×61.0 | 23kg |
[数値の出典] 内田頼利、高橋昇、諏訪重敏(1969)「超小型電子計算機HITAC10」『日立評論』1969年11月号, p.23、内山政人、佐々木毅(1970)「日本電気のNEAC-M4」『電子科学』1970年1月号(特集:ミニ・コンピュータ総まくり), p.23、日本アイ・ビー・エム(1975)「IBM5100ポータブル・コンピュータ 誕生」『日本経済新聞』1976年5月17日朝刊の一面広告。IBM 5100の外形寸法は、インチ表示をもとにcm換算した数値。
「ミニコンの登場は、メインフレームのダウンサイジングを目的としたものではなく、技術者のトレーニングを目的としたものであった」とする説
渡部弘之(1973)は、「小型計算機、すなわちミニコンピュータは大型機の[半導体の大規模集積化という]集約の結果生まれたというよりも、最初は大型計算機の構成(しくみ)を学ぶ(トレーニング)という目的でスタートした論理回路の学習機、シーケンスコントロールのモデル機より入ってきた分野といえる」(p.13。[]内のみ引用者の補足)
渡部弘之(1973)「マイクロコンピュータの可能性を探る」『電子科学』1973年10月号, pp.13-20
渡部弘之(1973)「マイクロコンピュータの可能性を探る」『電子科学』1973年10月号, pp.13-20
関連参考資料
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