A.M. Turing (1945,1946) Proposals for Development in the Mathematics Division of an Automatic Computing Engine (ACE)

 本報告書は、プログラム内蔵型コンピュータに関する最初の詳細な設計(”the first detailed design of a stored-program computer”)を記したものと評価されているが、内容的にそのように判断されるという意味においてであり、本報告書の中にstored-program computerという用語は登場しない。そもそもコンピュータ・プログラムという意味でのprogramという単語そのものが登場しない。
 
 またcomputerという語句は、当時のイギリスでの日常的用法によるため、下記に引用したように、「計算をする人間」(計算手、human computer)という意味でのみ使われている。(これは、アメリカにおいても同様であり、ENIACはElectronic Numerical Integrator and Calculatorの、EDSACはElectronic Delay storage Aucomatic Calculatorの略称である。ただしENIACの後継機であるEDVACは、Electronic Discrete Variable Automatic Computerの略称である。)
 
It is evident that if the machine is to do all that is done by the normal human operator it must be provided with the analogues of three things, viz. firstly, the computing paper on which the computer writes down his results and his rough workings; secondly, the instructions as to what processes are to be applied; these the computer will normally carry in his head; thirdly, the function tables used by the computer must be available in appropriate form to the machine.
通常の人間が行うすべての作業を機械に行わせようとすれば、(人間が計算に用いる)次の3つのモノに対応するものを機械に装備させなければならないことは明白である。すなわち、第一に、計算手が計算結果や計算の途中経過を書き留めるための計算用紙に相当するモノ。第二に、どのような手順で計算をするのかに関する指示に相当するモノ(人間の計算手の場合には、計算の手順は、通常、計算する者の頭の中に入れておかれる。)。そして第三に、計算手が用いる関数表に相当するもの。(関数表はは機械が利用可能な適切な形式で利用可能なようにしておかなければならない。)
 
そのため、報告書の表題はComputing Engineとなっているが、提案されているマシンのことはelcectronic calculatorと報告書の中で呼ばれている。elcectronic calculatorという語句は、現代的用語法ではプログラム利用が不可能な計算装置である「電卓」を意味するが、文脈上、下記では電子計算機の訳語を当てている。
 
チューリングは「はじめに」の箇所で、報告書表題のan Automatic Computing Engine(自動計算エンジン)という部分、すなわち、これまでの機械式計算機(手動の歯車式計算機)と異なり、自らが提案している電子計算機では計算プロセスに人間を介在させることなく「全自動化」(automatic)することにより、下記のような3つの利点が実現できるとしている。
 
(1) 機械の速度は、もはや人間の速度にまったく制約されなくなる。
(2) 機械的な誤謬可能性がある程度は残るにしても、人間的な誤謬可能性は排除される。
(3) 人間では取り扱うことが容易でないような、極めて複雑なプロセスも実行可能である。

(1) The speed of the machine is no longer limited by the speed of the human operator.
(2) The human element of fallibility is eliminated, although it may to an extent be replaced by mechanical fallibility.
(3) Very much more complicated processes can be carried out than could easily be dealt with by human labour.

 

なお(1)の利点である計算速度に関しては、真空管を利用することで、「10桁の数字2つの掛け算を500マイクロ秒で実行することを目標としている。それが実現できれば機械式計算機(歯車式計算機)による場合の2万倍以上の速度で計算ができる。」という趣旨の記載をおこなっている。また「高速な計算を実現するため、この計算機は完全に電子式とする。単位演算(例えば1+1の加算)にかかる時間は1マイクロ秒である。現時点では、これ以上の高速化を目指す設計は賢明ではないと考えられている。(In order to obtain high speeds of calculation the calculator will be entirely electronic. A unit operation (typified by
adding one and one) will take 1 microsecond. It is not thought wise to design for higher speeds than this as yet.)」とも記している。

 
 
さらにまた、「アラン・チューリングは本報告書の中で汎用デジタルコンピュータの性質と設計を理解するための決定的な資料としてノイマンの『EDVACに関する報告書』を引用している」という評価がなされたりするが、直接的にそのことを裏付けるような文言は存在しないように筆者には思われる。チューリングの本報告書の中でノイマンの名前が挙がっているのは3カ所のみであるだけでなく、そうした評価に関わる文言としては下記のような文章が「はじめに」の箇所の最後にあるだけである。
 
本報告書[チューリングの自身の報告書のこと]は、提案された計算機についてかなり詳細な説明を提供している。ただし、 J. von Neumannの『EDVACに関する報告書』 と併せて読むことを推奨する。
The present report gives a fairly complete account of the proposed calculator. It is recommended however that it be read in conjunction with J. von Neumann’s ‘Report on the EDVAC’.
 

A.M. Turing “Proposals for Development in the Mathematics Division of an Automatic Computing Engine (ACE)のテキスト資料

  1. “Proposed Electronic Calculator(1945) by Alan Turing” Wikisource
    https://en.wikisource.org/wiki/Proposed_Electronic_Calculator

    テキスト化された全文を各節ごとにHtml表示したサイト。テキスト化された全文のPDFは、WEBページ画面の右側上のdownloadアイコンをクリックすることでダウンロード可能である。
    なお本文書の草稿の完成年に基づき、1945年と記載されている。

     
  2. https://en.wikisource.org/wiki/File:Alan_Turing_-_Proposed_Electronic_Calculator_(1945).pdf
    タイプライター版。全文がダウンロード可能。表紙部分あり。
     
  3. https://web.archive.org/web/20221215104234/https://cs.furman.edu/~tallen/csc475/materials/Turing_Report_on_ACE.pdf
    タイプライター版。全文がダウンロード可能。表紙部分はない。
     
  4. Carpenter, Brian E; Doran, R. W (eds.) (1986) A.M. Turing’s ACE report of 1946 and other papers, MIT
    reprint版。表題の通り、イギリスの国立物理研究所への提出日(1946年2月19日)に基づき、1946年となっている。
     
本文書について、1945年表記と1946年表記の二つがある。これは、下記Google Geminiの回答によれば、「歴史的事実の矛盾を意味するものではない。この年号解釈における表面的な乖離は、チューリングによる技術的草案の執筆完了時期(1945年末)と、NPL執行委員会への公式な提出および審議・承認時期(1946年初頭)という、文書の成立における二つの異なる歴史的フェーズに起因している。」ということである。
(なお1945年の根拠としては、Copeland, B. J., ed. (2005) Alan Turing’s Automatic Computing Engine, Oxford University Pressに基づく英語版Wikipedia”Automatic Computing Engine”(https://en.wikipedia.org/wiki/Automatic_Computing_Engine)の記述が挙げられている。)
 Google-Gemini-Turing_Report_on_ACE
 
 

本文書関連論文

本文書に関する解説WEBページ

  1. Centre fo computing history ”Alan Turing proposes the Automatic Computing Engine, or ACE”
    https://www.computinghistory.org.uk/det/6139/Alan-Turing-proposes-the-Automatic-Computing-Engine-or-ACE/

    本WEBページによれば、チューリングは、1946年2月19日、イギリスの国立物理研究所の会議にProposals for Development in the Mathematics Division of an Automatic Computing Engine (ACE)[数学部門における自動計算機(略称 ACE)の開発に関する提案]を提出した。
    このACEとして知られるマシンは、プログラム内蔵型コンピュータの最初の詳細な設計であった。1か月後に開かれた2回目の会議で、この提案は承認され、チューリングはプロジェクトの費用を11,200ポンドと見積もった。チューリングが設計した完全なACEは結局製造されなかったが、試作機として作られた小型版のパイロット機は製造され、1950年に運用を開始した。
     
 

ACEに関する画像WEBページ

  1. 「チューリングの「巨大な頭脳」:パイロットモデルACEの物語」
    https://artsandculture.google.com/story/turing-39-s-39-giant-brain-39-the-pilot-model-ace-story-the-national-museum-of-computing/AAWRpJm_qW-vcg
    Turing’s ‘Giant Brain’: The Pilot Model ACE Story
    https://artsandculture.google.com/story/turing-39-s-39-giant-brain-39-the-pilot-model-ace-story-the-national-museum-of-computing/AAWRpJm_qW-vcg?hl=en

    Pilot ACEは、英国で最初に製造された初期の汎用プログラム内蔵型コンピュータの一つである。国立物理研究所(NPL)で製造されたもので、1950年5月10日に最初のプログラムを実行し、1950年11月に報道陣に公開された。同時代のマンチェスターMark 1やEDSACなど、他の英国製コンピュータと並ぶものである。これは、アラン・チューリングが設計した完全版ACEの試作版であるが、残念ながらチューリングは Pilot ACEの製造が完了する前にNPLを去っている。