フォン・ノイマン(1945)『EDVACに関する報告書 第一草稿』First Draft of a Report on the EDVAC

フォン・ノイマン(1945)『EDVACに関する報告書 第一草稿』First Draft of a Report on the EDVACは、ノイマン型アーキテクチャを世界で初めて文書化したものとして有名である。

もともとはノイマンの自筆による手書きの101ページにものぼる長文の文書である。機密扱いのENIACプロジェクトのセキュリティ責任者であったハーマン・ゴールドスタインは、ノイマンの手書き文書をタイプさせ、複製を配布させた。タイプされた報告書の表紙下部に記された日付は1945年6月30日となっているが、最初の草稿24部はその5日前の6月25日にEDVACプロジェクトに深く関わる人々に配布されている。

なお本報告書に関して、アラン・チューリングは1946年にイギリスの国立物理研究所に提出した文書Proposals for Development in the Mathematics Division of an Automatic Computing Engine(ACE)の中で、「本報告書[チューリングの自身の報告書のこと]は、提案された計算機についてかなり詳細な説明を提供している。ただし、 J. von Neumannの「EDVACに関する報告書」 と併せて読むことを推奨する」(The present report gives a fairly complete account of the proposed calculator. It is recommended however that it be read in conjunction with J. von Neumann’s ‘Report on the EDVAC’)と記載するなど、ノイマンの第一世代のデジタル式電子計算機技術者に与えた影響は極めて大きい。

「アラン・チューリングはACEコンピュータに関する提案レポートの中で汎用デジタルコンピュータの性質と設計を理解するための決定的な資料としてノイマンの『EDVACに関する報告書』を引用している」(“Most prominently, Alan Turing cites it, in his proposal for the Pilot ACE, as the definitive source for understanding the nature and design of a general-purpose digital computer.” Michael D. Godfrey(1193)IEEE Annals of the History of Computing, Vol.15, No.4, pp.27)という評価がなされたりするが、直接的にそのことを裏付けるような文言は存在しないように筆者には思われる。チューリングの本報告書の中でノイマンの名前が挙がっているのは3カ所のみであるだけでなく、そうした評価に関わる文言としては上記のような文章が「はじめに」の箇所の最後にあるだけである。
 
ノイマンは本報告書の考察の対象を、「超高速自動デジタル計算システムの構造、特にその論理制御についての考察」(The considerations which follow deal with the structure of a very high speed automatic digital computing system, and in particular with its logical control.)[報告書 「1.0 定義」の箇所]としている。
そして自動計算システム(automatic computing system)に対する命令(instructions)について、プログラムによる処理の自動性を強調して下記のように記載している。
 
 これらの命令は、装置が感知できる何らかの形式で与えられなければなりません。パンチカードシステムへのパンチ、テレタイプテープへの記録、スチールテープやワイヤーへの磁気記録、映画フィルムへの写真記録、固定式または交換式プラグボードへの配線(wired into one or more, fixed or exchangeable plugboards)など、このリストは必ずしも完全なものではありません。これらの手順はすべて、検討対象の問題の論理的および代数的定義、ならびに必要な数値データを表現するために、何らかのコードを使用する必要があります。
 これらの命令が装置に与えられると、装置は、それ以上の人間の知的な介入を必要とせずに、それらを完全に実行できなければなりません。必要な操作の最後に、装置は結果を上記のいずれかの形式で記録する必要があります。
 

また「超高速」性の確保のために真空管を採用すべき理由に関して、ノイマンは、下記のように人間の神経細胞のシナプス伝達時間との比較もおこなっている。

超高速の計算装置には、理想的には真空管素子が用いられるべきであることは明らかです。カウンタやスケーラといった真空管を用いた装置は、1マイクロ秒(10⁻⁶秒)という極めて短い反応時間(シナプス遅延に相当)においても高い信頼性を示しており、この性能に匹敵しうる装置は他に存在しません。実際、純粋な機械式装置は全く考慮の対象外ですし、実用的な電信リレーの反応時間も10ミリ秒(10⁻²秒)あるいはそれ以上を要します。興味深いことに、ヒトのニューロンにおけるシナプス伝達時間は1ミリ秒(10⁻³秒)のオーダーにあります。
4.3 It is clear that a very high speed computing device should ideally have vacuum tube elements. Vacuum tube aggregates like counters and scalers have been used and found reliable at reaction times (synaptic delays) as short as a microsecond (= 10􀀀6 seconds), this is a performance which no other device can approximate. Indeed: Purely mechanical devices may be entirely disregarded and practical telegraph relay reaction times are of the order of 10 milliseconds (= 10􀀀2 seconds) or more. It is interesting to note that the synaptic time of a human neuron is of the order of a millisecond(= 10􀀀3 seconds).
 

■本報告書von Neumann, J. (1945) “First Draft of a Report on the EDVAC”. University of Pennsylvania, Moore School, 30 June 1945. (101 pp.)のPDFファイル■

本報告書のPDFは様々なWEBサイトからダウンロードできる。下記にその中のいくつかを紹介する。

  1. Smithsonian Libraries and Archives版
    タイプライタ版のカラースキャン・データ。文字がかすれている箇所があり、少し読みにくい。PDF以外に、ePub,Kindle, JPEGの各種フォーマットがダウンロード可能。
     
  2. Computer History Museum版
    タイプライタ版のグレースキャン・データ。背景はグレーであるが、文字はそれなりに濃く読みやすい。
     
  3. IEEE Annals of the History of Computing, Vol.15, No.4,1993再録版
    https://web.mit.edu/sts.035/www/PDFs/edvac.pdf
    https://dl.acm.org/doi/10.1109/85.238389

    ペンシルベニア大学ムーア・スクール図書館から入手したオリジナルのタイプ原稿を忠実にテキスト化したもの。ただし、多数の誤植を修正し、フォン・ノイマンが未記入のままにしていた後方参照については、可能な限り補完を行っている。欠落している参照(主に第15.0節以降の未執筆部分に関するもの)は、空の { } で示されている。追加された箇所(主に後方参照)はすべて { } で囲まれている。
     
  4. Michael D. Godfreyによる、1993年のIEEE Annals of the History of Computingの追加・修正版
    https://people.csail.mit.edu/brooks/idocs/VonNeumann_EDVAC.pdf

    Sunit Mahajan氏による入念な校正による修正箇所の指摘を受けて、Michael D. Godfreyがいくつかの追加・修正を加えたもの。目次と図へのハイパーリンクも追加されている。最終的なバージョンは、2011年1月10日付。